その人に合うヘアスタイル ヘアスタイル 2-2
さくら苑にいるお年寄りたちのほとんどは真っ白い髪で綺麗な色をしていますが,その中にいつも髪の毛を綺麗にしている山田さんという小さな体の女性がいます。色が白くて顔の表情がとても穏やかな方です。
彼女の毛髪は年齢の割に量が多く,口角ぐらいの所でまっすぐに髪の毛を切っています。
そして色が白いので,柔らかいクリーム色やピンクの洋服を着ていることが多いのですが,それに合わせてピンクやクリーム色の,もしくはプリントのあるカチューシャを着けるようにしています。
それが顔に柔らかさを与え,とてもかわいらしくなります。

鈴木貞子さんは,コスメティックセラピーに3年間ほとんど参加しています。毛の量は多くツヤもあって本当に綺麗な白髪をしていますので,肩に少しつくくらいのボブスタイルにして,前髪を全部上げ,柔らかい色のカチューシヤを着けています。
メイクを終え最後にヘアを整えるときの整髪料には,ジェル,ムース,またはオイルベースの物がありますが,彼女にはオイルベースの物を使っています。髪にツヤがあると若々しく見えるものですが,オイルベースの物ですと,さほどべたつかずにツヤを出すことができるのです。それで少し髪の毛に表情をつける感じにしています。
特に顔の中心である前髪を少しウェーブさせたり,カールさせたりすると,表情が出てきます。ショートカットの方でも,ただ短くしていると男っぽくなってしまいますが,前髪だけステームと言って少し高さを出し,そしてアール曲線※1を額にかかるようにすると,毛の表情がメークを引き立たせてくれて,女性らしく見えます。
100歳の吉田ナツさんはとても髪の分け目を気にする方です。分け目を真ん中ではなく,少し外側に持ってくると顔がふっくらして見えますので,私たちは意識してそうなるようにしていますが,ナツさん自身も自分でブラシを当てて「今日はいいな」と言ったりするので,本人の希望に沿うようにしています。
基本的に,髪の毛を切り過ぎたときはセンターパート,少し伸ぴてきたら横分けにして前髪の表情を作ります。
すると,100歳を超えた方ですがとても色気が出てきて,自分でもそう思うのでしょう,「惚れたってダメよ」と男性陣に言ったりします。
もうこの方は亡くなられてしまいましたが,髪を腰まで長く伸ばしていた女性もいました。彼女は昔芸者さんをしていたそうで,肌もとても締麗で色もくすんでなく,髪の毛もいつも自分でアップに結っていました。自分でなさる時は頭頂部にポニーテールをして,そこに長い毛をくるくる巻いて,髪飾りなどを着け,柔らかい感じにしていました。
私が結うときは,本人の仕方とは多少変え,前髪を少しふくらませるようにしました。
彼女は女性の美しさを職業としていた方ですから,やはりその意識は他の方とは違っていたように感じます。自分で髪の毛を結える人は彼女しかいませんでした。痴呆症はありましたが,美しさを見せる意識は失わなかったのでしょう。
※1、アール曲線前髪の高さを出し,丸みのあるカーブが顔にかかるように仕上げる
もう一人,特異な例ではありますが,日本女性の美意識を未だ持ち続けている例を挙げます。
額の生え際の髪の毛が抜けていくのも老人独特の症状ですが,この方もそうです。彼女はある軽度髪の毛を長く伸ばしていて,昔のお年寄りのように後ろで束ねている,つまりマゲを作っています。
そして彼女独特のおしゃれ,美容方法なのですが,黒いチョークのような物を額に塗っています。恐らく,昔の人が黒い炭で髪の毛を染めていた,その延長線上にある行為なのでしょう。
彼女は自分の肌色よりかなり白い色のファンデーションを塗っているうえに,髪の毛も塗っているため,人工的な黒さになっていて,とてもミスマッチで妙に見えます。
そこでクレンジングをして.アドバイスをしたのですが,そこは頑として譲らず,今でも額を黒く漆り続けています。
そんなふうに「化粧は白く,髪の毛は黒いのが美しい」という,古くからある日本女性の美意識を持っている女性です。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版

彼女の毛髪は年齢の割に量が多く,口角ぐらいの所でまっすぐに髪の毛を切っています。
そして色が白いので,柔らかいクリーム色やピンクの洋服を着ていることが多いのですが,それに合わせてピンクやクリーム色の,もしくはプリントのあるカチューシャを着けるようにしています。
それが顔に柔らかさを与え,とてもかわいらしくなります。

鈴木貞子さんは,コスメティックセラピーに3年間ほとんど参加しています。毛の量は多くツヤもあって本当に綺麗な白髪をしていますので,肩に少しつくくらいのボブスタイルにして,前髪を全部上げ,柔らかい色のカチューシヤを着けています。
メイクを終え最後にヘアを整えるときの整髪料には,ジェル,ムース,またはオイルベースの物がありますが,彼女にはオイルベースの物を使っています。髪にツヤがあると若々しく見えるものですが,オイルベースの物ですと,さほどべたつかずにツヤを出すことができるのです。それで少し髪の毛に表情をつける感じにしています。
特に顔の中心である前髪を少しウェーブさせたり,カールさせたりすると,表情が出てきます。ショートカットの方でも,ただ短くしていると男っぽくなってしまいますが,前髪だけステームと言って少し高さを出し,そしてアール曲線※1を額にかかるようにすると,毛の表情がメークを引き立たせてくれて,女性らしく見えます。
100歳の吉田ナツさんはとても髪の分け目を気にする方です。分け目を真ん中ではなく,少し外側に持ってくると顔がふっくらして見えますので,私たちは意識してそうなるようにしていますが,ナツさん自身も自分でブラシを当てて「今日はいいな」と言ったりするので,本人の希望に沿うようにしています。
基本的に,髪の毛を切り過ぎたときはセンターパート,少し伸ぴてきたら横分けにして前髪の表情を作ります。
すると,100歳を超えた方ですがとても色気が出てきて,自分でもそう思うのでしょう,「惚れたってダメよ」と男性陣に言ったりします。
もうこの方は亡くなられてしまいましたが,髪を腰まで長く伸ばしていた女性もいました。彼女は昔芸者さんをしていたそうで,肌もとても締麗で色もくすんでなく,髪の毛もいつも自分でアップに結っていました。自分でなさる時は頭頂部にポニーテールをして,そこに長い毛をくるくる巻いて,髪飾りなどを着け,柔らかい感じにしていました。
私が結うときは,本人の仕方とは多少変え,前髪を少しふくらませるようにしました。
彼女は女性の美しさを職業としていた方ですから,やはりその意識は他の方とは違っていたように感じます。自分で髪の毛を結える人は彼女しかいませんでした。痴呆症はありましたが,美しさを見せる意識は失わなかったのでしょう。
※1、アール曲線前髪の高さを出し,丸みのあるカーブが顔にかかるように仕上げる
もう一人,特異な例ではありますが,日本女性の美意識を未だ持ち続けている例を挙げます。
額の生え際の髪の毛が抜けていくのも老人独特の症状ですが,この方もそうです。彼女はある軽度髪の毛を長く伸ばしていて,昔のお年寄りのように後ろで束ねている,つまりマゲを作っています。
そして彼女独特のおしゃれ,美容方法なのですが,黒いチョークのような物を額に塗っています。恐らく,昔の人が黒い炭で髪の毛を染めていた,その延長線上にある行為なのでしょう。
彼女は自分の肌色よりかなり白い色のファンデーションを塗っているうえに,髪の毛も塗っているため,人工的な黒さになっていて,とてもミスマッチで妙に見えます。
そこでクレンジングをして.アドバイスをしたのですが,そこは頑として譲らず,今でも額を黒く漆り続けています。
そんなふうに「化粧は白く,髪の毛は黒いのが美しい」という,古くからある日本女性の美意識を持っている女性です。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版

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