高齢者と接してみて 化粧 1-2
さくら苑でのコスメティックセラピーを開始した当初は、とにかく皆さん顔の表情が乏しく、どんなふうに話しかけていいのか戸惑いました。
まず「今日から毎月お化粧しに来るからよろしくね」というように一人づつ手を握ることから始めたのですが、こちらは「やるんだぞ」という意気込みが先行し、両者の気持ちのギャップを感じました。
相手も顔をそんな形で触れられたことがないので、クレンジングのとき化粧水をつけるだけでも驚いて「冷たい!」といったり、強張ったような表情をしたりしていました。3歳くらいまでの子供が、汚れた顔を拭こうとしたり手を拭いたりしたら嫌がったりする、ちょうどそんな感じです。
そういう中から、「今からちょっと冷たいけどこうしようね」と、まず声をかけるようにすることを私たちは学びました。そして少しづつコミュニケーションがとれるようになっていきました。

みなさん高齢者ということでシワやシミやたるみがあるのは当然のことですが、痴呆だけではなく、口がずっと閉じられなかったり、同じことをずっとしゃべっていたり、噛みついたりする症状の方もいらっしゃるわけです。
とにかく一つ一つのことに毎回驚かされ、それと同時に、老いというものは様々な症状に出てくるんだな、ということがつくづく感じられました。
高齢者の皮膚の表面はひどく乾燥した状態になっていて、水分も油分も非常に少ない。さらには不潔にしていなくても、老人独特の匂いが出ます。そういう部分も含めて、老いというものを知っていったわけです。
このような方たちをお化粧する際の注意点として、まず一つめに「手早く」ということが挙げられます。先程申しましたように、お年寄りは3歳児と同じような反応を示すことがあるので、短い時間で仕上げるということがとても大切になります。若い人のような、服装を含めた完璧なコーディネートというレベルではなく、花を添える、色を添えるところに意味があります。
例えば、ファンデーションは若い人のようにスムーズに手やスポンジで滑らせて塗るというのではなく、クレンジングのあとに化粧水(水分)をたっぷり含ませて、その水分が乾かないうちに化粧の下地クリームを塗っていきます。しっかり擦り込むというよりも、液体のファンデーションを使って手早く仕上げるのです。
二つめのポイントとして、「表情を出す」ことが挙げられます。これには頬紅の色を工夫し、少し強めに出る色で強調させると、頬が高揚して表情が明るく見えてきます。そして、それを本人が見ることによって笑みが出て、さらに明るくなるという相乗効果があります。
三つめは「のりの良い化粧品を使う」ことです。お年寄りの肌はとても乾燥した状態なので、その肌に合う、のりの良い化粧品を選ぶということはとても大切です。例えば、眉はアイブローペンシル(眉鉛筆)ではなく、パウダーのアイシャドーを使います。
最後に「コミュニケーションを取る」ことが挙げられます。
お化粧の仕上げとして口紅を塗りますが、入れ歯などの関係で上唇がほとんど見えません。リップブラシを使って描くのはとても大変で、セラピーを始めた頃は苦労しましたが、今では「キスをするような感じで唇を出して」というふうに、恥ずかしいけど楽しくなるような表現を使って、コミュニケーションを取りながら化粧できるようになりました。

振り返ってみると、最初の半年間はコミュニケーションをいかにして取るかを考えさせられました。初めの段階では、ジャグジーのような足浴の機械を持ち込んで、イスラエルの死海の塩とエッセンシャルオイルを入れたお湯の中に足を入れる足浴をやっていたのですが、前に申し上げたように、顔に化粧水をのせるだけでも驚くわけですから、靴下も脱がせて足をひたそうとすると、猫が足を水につけたときのようにとても嫌がって、気持ちがいいというよりも妙な感覚を持たれたようです。
健康な働き盛りの人にはそれが気持ち良かったりするのですが、歳を取ってしまうと、水のような動く物に体を入れたり、自分の体に何かをするということに、とても抵抗を持つのだということを知りました。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版
まず「今日から毎月お化粧しに来るからよろしくね」というように一人づつ手を握ることから始めたのですが、こちらは「やるんだぞ」という意気込みが先行し、両者の気持ちのギャップを感じました。
相手も顔をそんな形で触れられたことがないので、クレンジングのとき化粧水をつけるだけでも驚いて「冷たい!」といったり、強張ったような表情をしたりしていました。3歳くらいまでの子供が、汚れた顔を拭こうとしたり手を拭いたりしたら嫌がったりする、ちょうどそんな感じです。
そういう中から、「今からちょっと冷たいけどこうしようね」と、まず声をかけるようにすることを私たちは学びました。そして少しづつコミュニケーションがとれるようになっていきました。

みなさん高齢者ということでシワやシミやたるみがあるのは当然のことですが、痴呆だけではなく、口がずっと閉じられなかったり、同じことをずっとしゃべっていたり、噛みついたりする症状の方もいらっしゃるわけです。
とにかく一つ一つのことに毎回驚かされ、それと同時に、老いというものは様々な症状に出てくるんだな、ということがつくづく感じられました。
高齢者の皮膚の表面はひどく乾燥した状態になっていて、水分も油分も非常に少ない。さらには不潔にしていなくても、老人独特の匂いが出ます。そういう部分も含めて、老いというものを知っていったわけです。
このような方たちをお化粧する際の注意点として、まず一つめに「手早く」ということが挙げられます。先程申しましたように、お年寄りは3歳児と同じような反応を示すことがあるので、短い時間で仕上げるということがとても大切になります。若い人のような、服装を含めた完璧なコーディネートというレベルではなく、花を添える、色を添えるところに意味があります。
例えば、ファンデーションは若い人のようにスムーズに手やスポンジで滑らせて塗るというのではなく、クレンジングのあとに化粧水(水分)をたっぷり含ませて、その水分が乾かないうちに化粧の下地クリームを塗っていきます。しっかり擦り込むというよりも、液体のファンデーションを使って手早く仕上げるのです。
二つめのポイントとして、「表情を出す」ことが挙げられます。これには頬紅の色を工夫し、少し強めに出る色で強調させると、頬が高揚して表情が明るく見えてきます。そして、それを本人が見ることによって笑みが出て、さらに明るくなるという相乗効果があります。
三つめは「のりの良い化粧品を使う」ことです。お年寄りの肌はとても乾燥した状態なので、その肌に合う、のりの良い化粧品を選ぶということはとても大切です。例えば、眉はアイブローペンシル(眉鉛筆)ではなく、パウダーのアイシャドーを使います。
最後に「コミュニケーションを取る」ことが挙げられます。
お化粧の仕上げとして口紅を塗りますが、入れ歯などの関係で上唇がほとんど見えません。リップブラシを使って描くのはとても大変で、セラピーを始めた頃は苦労しましたが、今では「キスをするような感じで唇を出して」というふうに、恥ずかしいけど楽しくなるような表現を使って、コミュニケーションを取りながら化粧できるようになりました。

振り返ってみると、最初の半年間はコミュニケーションをいかにして取るかを考えさせられました。初めの段階では、ジャグジーのような足浴の機械を持ち込んで、イスラエルの死海の塩とエッセンシャルオイルを入れたお湯の中に足を入れる足浴をやっていたのですが、前に申し上げたように、顔に化粧水をのせるだけでも驚くわけですから、靴下も脱がせて足をひたそうとすると、猫が足を水につけたときのようにとても嫌がって、気持ちがいいというよりも妙な感覚を持たれたようです。
健康な働き盛りの人にはそれが気持ち良かったりするのですが、歳を取ってしまうと、水のような動く物に体を入れたり、自分の体に何かをするということに、とても抵抗を持つのだということを知りました。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版
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