コラム “コスメティックセラピー”講師の話 化粧 1-コラム
前述の白梅学園短期大学,真砂絵里子さんと斉藤裕美さんが,さくら苑での実習体験後に共同で書かれた卒論の一部ご紹介しますので,参考にしてください。

ーー“コスメティックセラピー”講師の話ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コスメティックセラピーの講師である「個性表現文化学院」学院長の矢野実千代先生の話をまとめてみたい。矢野先生が“コスメティックセラピー”を始めたきっかけは「美しく老いていくというのが,これから大事になってくると考え,まず現場に出て実践することにした」ということであった。
その当時を振り返ると,入所者一人ひとりの表情がかたく,皮膚のつやもなく,身体の表現も静止しているようであったと言う。
コスメティックセラピーを始めた当初は,矢野先生自身も入所者もお互いに緊張していたせいもあり,「リラックス」の為の「化粧」が,逆に気を使ってしまい,効果が出なかったようである。しかし,回を重ねる度に自然に心の交流ができ,「信頼」が繋がっていったということである。
矢野先生は,“コスメティックセラピー"について次のように話している。
「これはこの世に人が誕生するお産の作業に似て,母と子,助産婦医師,家族が一つの気持ちになり,命の誕生を迎えるように,それに関わる人の和が喜びとなり結果として形になるようです。人間は肉体をもって誕生し鍛練されて身体となる。身体となった時,大自然に反応して生きる。反応の所産,それが人間ではないか。喜怒哀楽の表現を化粧をすることによって,『今,ここに生きる』ことを実感し家族のようになごみ,柔らかな表情をいつも見せて頂いています」。
さらに「ふれあいが感動まで高まる『心づくし』,たったこれだけの中に人の心をつなぐ芸術表現があるように思えてならない。今の世の中は,人がどう生きなければならないのかを考える時期であり,誰も老いて死を迎えることは同じなので,それならば人間的に向上しようとする楽しみのある人生を送りたいものです。」
そして,コスメテイックセラピーを行う事が大切なのではなく,それを施設の中の生活の一部としてどのように取り入れていくかが,これから考えていかなくてはならないことと考えているようである。
【1】化粧の効果について
化粧は女性にとって外見を変化させるにとどまらず,気持ちも変化させ得る習慣であることは,経験的によく知られている。例えば化粧により,より良い印象を人に与えられれば,対人行動や自己提示が積極的になるといわれているが,特に対人場面に臨むことがなくても,化粧行為自体が気持ちに何らかの変化をもたらすことが自覚されている場合が多い。
化粧をする前とした後での気持ちの変化について女性たちがどのように意識しているか.ということに関するある調査において「素顔の時と比べて,メイクアップした時のあなたの気持ちの状態」について,20歳から50歳代までの女性を対象に調べたところ,回答結果が大きく次の5つに分かれた。「積極性の向上」「リラクセーション」「気分の高揚(対外)」「同(対自)」「安心」の5つである。
そのうち,「リラクセーション」は50歳代で高い効果を持っており,年齢に応じて効果というものが,積極性から次第に内向的な沈静,自己統制へと変化することがわかる。
このように,実際に化粧した場合,化粧前に比べて化粧後には気分の覚醒状態や不安の低減が認められており,化粧のもたらす最もはっきりした心理的効果が,自信度や満足度の上昇につながることを示している。
さらに,化粧することにより適度な緊張が生じ,気持ちの切り替えがしやすくなったり,鏡に向かうことによって自己意識が高まることになる。
また,化粧の効果として自信回復と対人的積極性があげられる。
顔面へのスキンマッサージによるリラクセーションは自尊心の維持,高揚という心理的効果をもたらすもの(化粧療法)としてとらえることができる。
痴呆性老人やうつ病患の人たちへの化粧自体がそれぞれの病患を改善するということではないが,化粧をしたりされたりすることによって自分への関心を強め,行動が積極性を生み,また,化粧されるときの集中的な自分に向けられる注目,さらに化粧した姿に向けられる家族やその他の人々からの注目と言語的フィードバックが,自己の内発的な社会性をうながしていくと考えらている。
【2】特別養護老人ホーム「さくら苑」における,コスメティックセラピーの試み
●コスメティックセラピーの目的
さくら苑では「人間が主体である」という理念のもとで,利用者が常により高い自己実現に向かって生活できる環境づくりを心がけている。
そして,そのための活動を数多く行っているが,ここではその中の「装い,お化粧の勧め」(コスメティックセラピー)を取り上げたい。これは,美しく加齢し,その人らしい楽しい生活を作っていくために,装いやお化粧を大切にし,高齢期もまた人生の大切なステージであると考えて活動を進めているものである。
●コスメティックセラピーの実践状況
コスメティックセラピーは月に1回,第3水曜日の午後2時から食堂を利用して行われるが,事前にコスメティック・セラピーを行っている個性表現文化学院の学院長である矢野実千代先生とスタッフによって会場づくりが行われる。リラックス効果のある「お香」をたき,テーブルに鏡や色鮮やかな口紅やほお紅がセッティングされていく。食堂は美容室のように変化し,雰囲気作りをしていく。
準備が整うと,エレベーターで入所者が降りてくる。メークスタッフと入所者がお互いに挨拶をし,「楽しみにしていたよ」などと言葉を交わしていく。矢野先生はメークアップを始める前に必ず入所者の肩をたたき,「リラックス,リラックス」と声をかけて緊張をほぐす。
そして,はじめは顔のマッサージから始まるのだが,「クリーム少し冷たいけど,びっくりしないでね」と声を掛けたり,「次は化粧水をつけますよ」「目を閉じてください」など,入所者の不安な気持ちをなくすように多くの言葉掛けの配慮をしていく。
また,入所者の好きな歌を歌いながらメークし,リラックスさせていた。
矢野先生は会話はしながらも,入所者一人ひとりの好みの色を考えながら口紅やほお紅を塗っていく。また,高齢者の化粧をするポイントとしては,細かい部分に手を加えてもあまり変化が得られないために,眉とほお紅,口紅により変化をつけていくことがあげられる。
そして,入所者に長い時間いすに座っていてもらうというのも疲れてしまうので,できるだけ短時間で行うように努めていく。
最後に髪を整え,写真を撮り,表情や皮層の状態を記録したカルテを書いて終了することになる。
●特別養護老人ホームの入所者における化粧の効果
特別養護老人ホーム(以下特養と略す)における生活は,できるだけ家庭生活に近い形で営まれるべきであると考える。なぜならば人間にとって家庭生活こそが最も精神的に安定する環境であるからである。
特養の入所者にとっても化粧は積極性の向上,リラックス,気分の高揚,スキンシップ,ふれあいによって安心感が増すなどの効果が上げられると考えられる。
髪型や化粧は入所者の個性を生かし,各人満足のいくようにすべきであり,押しつけると逆効果に陥り,精神的にパニックになる傾向がある。
これまで病院などでは,顔色,唇の色,皮層の状態がわからないからという理由で化粧を避けてきた傾向が見られるが,特養においては健康状態を十分に気をつけた上で,化粧を日常生活の延長とみなして,個人のペースに合わせ,気分を乱すことなく落ち着いて化粧に取り組むことが必要なのではないだろうか。
また,化粧は入所者本人だけでなく,在宅で要援護老人の介護や処遇で負担を感じている家族などの精神的負机をいくらか軽減できるのではないかと考える。
心理学的にも,化粧することにより意欲が尚まり,会話や積極的高度が増加し落ち着いてくるなど,スムーズな対人行動がとれると言われているが,心理的,免疫学的効果として次のようなものが考えられる。
・人を活性化させる
・気持ちが高揚し,積極的になれる
・マッサージで, リラクセーションを図る
・五感を磨くと免疫力が高まる
五感のうちの触覚,嗅覚,視覚の三つを刺激する化粧行為が身と心を癒し活性化させるパワーを持っていることが学問的に立証されている。
また,心のホメオスタシス(精神を健康に維持しようとする調節機能)を維持するためには,見る,聴く、嗅ぐ,味わう,触るの五感は「心の窓」で,非常に重要である。
これらを磨けば,心にとてもよい影響を与えると科学的にも言われている。
・笑うとナチュラルキラー細胞(腫瘍細胞を殺す働きを持つリンパ球の一種)が活性化されて,癌の発生を抑制すると言われている。
・愛は脳を活性化させる
人間は化粧することにより,少しでも美しく見られたい,自分自身を美しくしようと心を配る。
そして自分の存在が意義深いものであると評価されると,その人の脳の働きは活性化していく。
以上のようなことからも,特養の入所者にとっても化粧の効果は大きいものがあると考えられる。
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真砂さんと斉藤さんから,以上のような卒業論文の報告をいただきました。
この中に出てくる,ホメオスタシス「恒常性」(自然治癒力,自己回復力の働きを整える)について,大切なことがらなのでもう少し詳しく説明しておきます。
「我々の身体は多くの生きた細胞からできており,その細胞がうまく活動することで生命が保たれている。これらの細胞は血液や組織液に浸されていてその中で生きているので,体液は細胞の活動に最適な状態でなければならない。したがって,細胞の生活環境としての『内部環境』が一定に保たれていることが生命維持に必要である」。
これは,フランスの生理学者クロード・ベルナール(1813~1878年)という人が亡くなる2年前に『動物と植物に共通の生命現象に関する講義』の中で示した「内部環境の恒常性」という考え方です。
彼はまた「外部環境の変化にかかわらず,体の内部環境が一定していることは生物の特徴である」という言葉を残しています。後にこの「内部環境の恒常性」を,アメリカの生理学者ウォルター・キャノン(1871~1945年)という人がホメオスタシスと名付けました。
ホメオとは「同一の」,スタシスは「状態」という意味を表すギリシャ語です。
人の体は,環境から受けるさまざまな刺激に対して身体的,精神的な反応を起こして環境との調和を図り調整しますが,これは心身内部の安定を保とうとするためです。
皮膚の表皮の一番外側(角質層)は,硬いケラチンというたんぱく質でできていて,外部からの異物の進入を防ぎます。
また,細胞膜の表面は免疫学的に決まった構造になっていて,それとは異なる構造の細菌などに対して拒否反応を示す機能を備えています。
さらに,物理的,化学的な外部からの刺激に対するセンサーが発達していて,神経やホルモンとつながって体内の代謝活動を調整し,内部の環境を一定に保つような仕組みになっています。
例えば,病気が治るという現象もこの恒常性の力によるものであり,また,夏と冬の室内温度差が25度をこえても,体温の変化は0.5度Cぐらいしかないとか,酸っぱいものをたくさん食べても血液のphは一定に保たれています。
さらに,呼吸は1分間に約17回,脈拍は1分間に65回といった体内の働きや化学成分は,温度や湿度のような環境の変化や働いているとき,食事をしているとき,寝ているときといった心身の変化にかかわらず一定です。
このような,恒常性を保とうとする力のことを自己調整能力とか自然冶癒力とも言います。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版


ーー“コスメティックセラピー”講師の話ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コスメティックセラピーの講師である「個性表現文化学院」学院長の矢野実千代先生の話をまとめてみたい。矢野先生が“コスメティックセラピー”を始めたきっかけは「美しく老いていくというのが,これから大事になってくると考え,まず現場に出て実践することにした」ということであった。
その当時を振り返ると,入所者一人ひとりの表情がかたく,皮膚のつやもなく,身体の表現も静止しているようであったと言う。
コスメティックセラピーを始めた当初は,矢野先生自身も入所者もお互いに緊張していたせいもあり,「リラックス」の為の「化粧」が,逆に気を使ってしまい,効果が出なかったようである。しかし,回を重ねる度に自然に心の交流ができ,「信頼」が繋がっていったということである。
矢野先生は,“コスメティックセラピー"について次のように話している。
「これはこの世に人が誕生するお産の作業に似て,母と子,助産婦医師,家族が一つの気持ちになり,命の誕生を迎えるように,それに関わる人の和が喜びとなり結果として形になるようです。人間は肉体をもって誕生し鍛練されて身体となる。身体となった時,大自然に反応して生きる。反応の所産,それが人間ではないか。喜怒哀楽の表現を化粧をすることによって,『今,ここに生きる』ことを実感し家族のようになごみ,柔らかな表情をいつも見せて頂いています」。
さらに「ふれあいが感動まで高まる『心づくし』,たったこれだけの中に人の心をつなぐ芸術表現があるように思えてならない。今の世の中は,人がどう生きなければならないのかを考える時期であり,誰も老いて死を迎えることは同じなので,それならば人間的に向上しようとする楽しみのある人生を送りたいものです。」
そして,コスメテイックセラピーを行う事が大切なのではなく,それを施設の中の生活の一部としてどのように取り入れていくかが,これから考えていかなくてはならないことと考えているようである。
【1】化粧の効果について
化粧は女性にとって外見を変化させるにとどまらず,気持ちも変化させ得る習慣であることは,経験的によく知られている。例えば化粧により,より良い印象を人に与えられれば,対人行動や自己提示が積極的になるといわれているが,特に対人場面に臨むことがなくても,化粧行為自体が気持ちに何らかの変化をもたらすことが自覚されている場合が多い。
化粧をする前とした後での気持ちの変化について女性たちがどのように意識しているか.ということに関するある調査において「素顔の時と比べて,メイクアップした時のあなたの気持ちの状態」について,20歳から50歳代までの女性を対象に調べたところ,回答結果が大きく次の5つに分かれた。「積極性の向上」「リラクセーション」「気分の高揚(対外)」「同(対自)」「安心」の5つである。
そのうち,「リラクセーション」は50歳代で高い効果を持っており,年齢に応じて効果というものが,積極性から次第に内向的な沈静,自己統制へと変化することがわかる。
このように,実際に化粧した場合,化粧前に比べて化粧後には気分の覚醒状態や不安の低減が認められており,化粧のもたらす最もはっきりした心理的効果が,自信度や満足度の上昇につながることを示している。
さらに,化粧することにより適度な緊張が生じ,気持ちの切り替えがしやすくなったり,鏡に向かうことによって自己意識が高まることになる。
また,化粧の効果として自信回復と対人的積極性があげられる。
顔面へのスキンマッサージによるリラクセーションは自尊心の維持,高揚という心理的効果をもたらすもの(化粧療法)としてとらえることができる。
痴呆性老人やうつ病患の人たちへの化粧自体がそれぞれの病患を改善するということではないが,化粧をしたりされたりすることによって自分への関心を強め,行動が積極性を生み,また,化粧されるときの集中的な自分に向けられる注目,さらに化粧した姿に向けられる家族やその他の人々からの注目と言語的フィードバックが,自己の内発的な社会性をうながしていくと考えらている。
【2】特別養護老人ホーム「さくら苑」における,コスメティックセラピーの試み
●コスメティックセラピーの目的
さくら苑では「人間が主体である」という理念のもとで,利用者が常により高い自己実現に向かって生活できる環境づくりを心がけている。
そして,そのための活動を数多く行っているが,ここではその中の「装い,お化粧の勧め」(コスメティックセラピー)を取り上げたい。これは,美しく加齢し,その人らしい楽しい生活を作っていくために,装いやお化粧を大切にし,高齢期もまた人生の大切なステージであると考えて活動を進めているものである。
●コスメティックセラピーの実践状況
コスメティックセラピーは月に1回,第3水曜日の午後2時から食堂を利用して行われるが,事前にコスメティック・セラピーを行っている個性表現文化学院の学院長である矢野実千代先生とスタッフによって会場づくりが行われる。リラックス効果のある「お香」をたき,テーブルに鏡や色鮮やかな口紅やほお紅がセッティングされていく。食堂は美容室のように変化し,雰囲気作りをしていく。
準備が整うと,エレベーターで入所者が降りてくる。メークスタッフと入所者がお互いに挨拶をし,「楽しみにしていたよ」などと言葉を交わしていく。矢野先生はメークアップを始める前に必ず入所者の肩をたたき,「リラックス,リラックス」と声をかけて緊張をほぐす。
そして,はじめは顔のマッサージから始まるのだが,「クリーム少し冷たいけど,びっくりしないでね」と声を掛けたり,「次は化粧水をつけますよ」「目を閉じてください」など,入所者の不安な気持ちをなくすように多くの言葉掛けの配慮をしていく。
また,入所者の好きな歌を歌いながらメークし,リラックスさせていた。
矢野先生は会話はしながらも,入所者一人ひとりの好みの色を考えながら口紅やほお紅を塗っていく。また,高齢者の化粧をするポイントとしては,細かい部分に手を加えてもあまり変化が得られないために,眉とほお紅,口紅により変化をつけていくことがあげられる。
そして,入所者に長い時間いすに座っていてもらうというのも疲れてしまうので,できるだけ短時間で行うように努めていく。
最後に髪を整え,写真を撮り,表情や皮層の状態を記録したカルテを書いて終了することになる。
●特別養護老人ホームの入所者における化粧の効果
特別養護老人ホーム(以下特養と略す)における生活は,できるだけ家庭生活に近い形で営まれるべきであると考える。なぜならば人間にとって家庭生活こそが最も精神的に安定する環境であるからである。
特養の入所者にとっても化粧は積極性の向上,リラックス,気分の高揚,スキンシップ,ふれあいによって安心感が増すなどの効果が上げられると考えられる。
髪型や化粧は入所者の個性を生かし,各人満足のいくようにすべきであり,押しつけると逆効果に陥り,精神的にパニックになる傾向がある。
これまで病院などでは,顔色,唇の色,皮層の状態がわからないからという理由で化粧を避けてきた傾向が見られるが,特養においては健康状態を十分に気をつけた上で,化粧を日常生活の延長とみなして,個人のペースに合わせ,気分を乱すことなく落ち着いて化粧に取り組むことが必要なのではないだろうか。
また,化粧は入所者本人だけでなく,在宅で要援護老人の介護や処遇で負担を感じている家族などの精神的負机をいくらか軽減できるのではないかと考える。
心理学的にも,化粧することにより意欲が尚まり,会話や積極的高度が増加し落ち着いてくるなど,スムーズな対人行動がとれると言われているが,心理的,免疫学的効果として次のようなものが考えられる。
・人を活性化させる
・気持ちが高揚し,積極的になれる
・マッサージで, リラクセーションを図る
・五感を磨くと免疫力が高まる
五感のうちの触覚,嗅覚,視覚の三つを刺激する化粧行為が身と心を癒し活性化させるパワーを持っていることが学問的に立証されている。
また,心のホメオスタシス(精神を健康に維持しようとする調節機能)を維持するためには,見る,聴く、嗅ぐ,味わう,触るの五感は「心の窓」で,非常に重要である。
これらを磨けば,心にとてもよい影響を与えると科学的にも言われている。
・笑うとナチュラルキラー細胞(腫瘍細胞を殺す働きを持つリンパ球の一種)が活性化されて,癌の発生を抑制すると言われている。
・愛は脳を活性化させる
人間は化粧することにより,少しでも美しく見られたい,自分自身を美しくしようと心を配る。
そして自分の存在が意義深いものであると評価されると,その人の脳の働きは活性化していく。
以上のようなことからも,特養の入所者にとっても化粧の効果は大きいものがあると考えられる。
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真砂さんと斉藤さんから,以上のような卒業論文の報告をいただきました。
この中に出てくる,ホメオスタシス「恒常性」(自然治癒力,自己回復力の働きを整える)について,大切なことがらなのでもう少し詳しく説明しておきます。
「我々の身体は多くの生きた細胞からできており,その細胞がうまく活動することで生命が保たれている。これらの細胞は血液や組織液に浸されていてその中で生きているので,体液は細胞の活動に最適な状態でなければならない。したがって,細胞の生活環境としての『内部環境』が一定に保たれていることが生命維持に必要である」。
これは,フランスの生理学者クロード・ベルナール(1813~1878年)という人が亡くなる2年前に『動物と植物に共通の生命現象に関する講義』の中で示した「内部環境の恒常性」という考え方です。
彼はまた「外部環境の変化にかかわらず,体の内部環境が一定していることは生物の特徴である」という言葉を残しています。後にこの「内部環境の恒常性」を,アメリカの生理学者ウォルター・キャノン(1871~1945年)という人がホメオスタシスと名付けました。
ホメオとは「同一の」,スタシスは「状態」という意味を表すギリシャ語です。
人の体は,環境から受けるさまざまな刺激に対して身体的,精神的な反応を起こして環境との調和を図り調整しますが,これは心身内部の安定を保とうとするためです。
皮膚の表皮の一番外側(角質層)は,硬いケラチンというたんぱく質でできていて,外部からの異物の進入を防ぎます。
また,細胞膜の表面は免疫学的に決まった構造になっていて,それとは異なる構造の細菌などに対して拒否反応を示す機能を備えています。
さらに,物理的,化学的な外部からの刺激に対するセンサーが発達していて,神経やホルモンとつながって体内の代謝活動を調整し,内部の環境を一定に保つような仕組みになっています。
例えば,病気が治るという現象もこの恒常性の力によるものであり,また,夏と冬の室内温度差が25度をこえても,体温の変化は0.5度Cぐらいしかないとか,酸っぱいものをたくさん食べても血液のphは一定に保たれています。
さらに,呼吸は1分間に約17回,脈拍は1分間に65回といった体内の働きや化学成分は,温度や湿度のような環境の変化や働いているとき,食事をしているとき,寝ているときといった心身の変化にかかわらず一定です。
このような,恒常性を保とうとする力のことを自己調整能力とか自然冶癒力とも言います。
出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版

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