認知され始めたコスメティックセラピー 化粧 1-4

こうしてさくら苑での活動が1年経って2年近くなり、コスメティックセラピーの成果が出始めるといろんな人が見学にいらしたり、取材しに来る機会が増えてきました。
こういうことをやっているんだということを広めるのも目的の1つですから、全て拒まず、どんな方でも見学に来ていただいています。
いろんな人と出会うことによってやっていることが広まり、またその人たちから学ぶこともあると考えているからです。もちろん中には冷やかしや、商売根性見え見えの方も何人かいらっしゃいましたが・・・・・・。

見学者の中に、東京都にある白梅短大で福祉を専攻している真砂絵里子さんと斉藤裕美さんという2人の女性がいました。ケーススタディーとして老人ホームに何か月か実習に来ていたのです。
彼女たちは介護の知識を学ぶ以前に、「化粧」を卒論のテーマに選んだようです。そして私がさくら苑でそれを実践していることを知り、お手伝いを兼ね取材に来たというわけです。
福祉の仕事をしようという方たちですから、とても気がきいて、邪魔にならない程度にお年寄りたちに声をかけたり、車椅子を速やかに動かしたりしてくれました。笑顔で接することにも、とても慣れていらっしゃいました。

斉藤さんはその卒論の中で、病院に通っている自分のおばあさんの生活に関して、「病院に行く日は必ず鏡の前に座って眉をひいたり、口紅を塗ったりすることが張り合いになっている」と書かれています。
病院に行くために、どこかに出掛けるときと同じように身だしなみとして化粧をしたり、おしゃれをするわけです。病院に行くことだけが目的だったり、行くのが病院しかないというのはとても寂しいことだと思ってしまいがちですが、「その人が自分の意思で好みに合ったものを選び、歳を取ってもこだわりを持ち続けることが大切」だと彼女は書いているのです。

また、実習で高齢者の着替えを担当したとき、「いつもより派手な柄や色、そして上品な質感のブラウスやスカートに対して、照れている様子の中にも嬉しそうな表情を見ることができた」とも書いています。
人間の心の中というのはその表情によって伺える、そういうところで人間は他人を理解しているのではないかと思います。
人とのふれあいの喜びの中で心の潤いがわき出るような、そんなふうに考えると、やはりおしゃれをするということは、どんな医学的な治療よりも老化防止に効果があるのではないかと思えてきます。

皮膚の表皮の細胞は植物の種子の形をしており、皮膚の表面の角質層が乾燥した状態は、植物の枯れた様と同じようです。だからこそ綺麗な物や綺麗な色を着る、花びらのような柔らかい素材のものを着ることが、バランス良く見えるのだと思います。
若いときは肉体が若いからこそ、渋い色やくすんだ衣服が似合うのと同じです。また、2章「ヘアスタイル」のところでもふれていますが、白髪には綺麗な色が似合いますので、欧米の老人がするように綺麗な衣服が映えるのも同じことです。


出典:矢野実千代(2000) 『高齢者のコスメティックセラピー』一番ケ瀬康子監修,一橋出版



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